延年の舞
お客様所蔵
「勧進帳」は源頼朝の怒りを買った源義経一行が、北陸を通って奥州へ逃げる際の加賀国の、安宅の関での物語です。義経一行は武蔵坊弁慶を先頭に山伏の姿で通り抜けようとします。辿り着いた関で、弁慶は焼失した東大寺再建のための勧進を行っていると言います。しかし、関守の富樫左衛門の元には既に義経一行が山伏姿であるという情報が届いており、山伏は通行罷りならぬと厳命します。これに憤慨した弁慶は仲間と富樫調伏の呪文を唱え、疑いを晴らそうとするのですが富樫は弁慶に、勧進帳を読んでみるよう命じます。弁慶はたまたま持っていた巻物を勧進帳であるかのように装い、朗々と読み上げます。なおも疑う富樫は山伏の心得や秘密の呪文について問いただしますが、弁慶は淀みなく答えます。富樫は通行を許しますが、部下の一人が強力(ごうりき、義経)に疑いをかけます。弁慶は主君の義経を金剛杖で叩き、その疑いを晴らします。富樫は弁慶の嘘を見破りながらもその心情を思い騙された振りをしました。危機を脱した義経が弁慶らと共に平家を追った戦の物語に思いを馳せていると、そこへ富樫が現れ、先の非礼を詫びて酒を勧めます。それに応じて、弁慶は酒を飲み、舞を披露します。これが『延年の舞』です。この時には弁慶のほうでも富樫の情のある計らいを薄っすら感じているのではないのでしょうか。弁慶と富樫の粋な男同士の肚芸が極まった美しい瞬間がこの舞に象徴されている。私はそのように感じ、是非ともこの場面を制作したいと思い博多人形の技法を用いて私なりにその様子を表現してみました。
